深夜ぶろぐ便

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英五 その人生と死、

「酒と泪と男と女」「時代おくれ」などで知られるシンガー・ソングライター河島英五さんが16日午前3時22分、肝臓疾患のため、大阪府東大阪市内の病院で死去した。48歳だった。今年1月末に吐血し、消化管出血のため入院した。3月中旬に1度退院し、同24日の長女でタレント河島あみる(23)の結婚式に出席したが、今月15日に再び吐血し帰らぬ人となった。硬派で、男の心情を素朴に歌い上げた。決して華やかな活動ではなかったが、河島さんの曲は男たちの応援歌として、カラオケで愛唱された。

妻牧子さん(47)長女のあみる、長男(18)が、側にいた。東京から急きょ駆け付けた二女の歌手アナム(21)が、一瞬、席を外してしまったほど、静かな死だった。関係者は「直前まで家族の問いかけに応じ、意識はあったようです。まさか自分が死ぬとは、きっと思っていなかったでしょう」と話した。歌手生活26年間でこなしたライブ4000回以上というシンガー・ソングライターは、最期の瞬間まで、闘志を持ち続けた。

 河島さんは昨年末からの年越し公演など、激務が続き、今年1月27日に吐血し入院した。スタッフによると「風邪をこじらせて体力が落ちていたため、食道を傷つけ出血した」症状だった。3月中旬に退院し、活動を再開した。182センチながら、体重は20キロ近くも落ちたが、歌いたかった。倒れる前日の14日にも大阪市内でトークショーを行った。その際、入院中に作った曲を即興で歌った。15日に自宅で再度吐血し、24時間後に逝(い)った。

 男くさいシンガー・ソングライターだった。「酒と泪──」が認知されたのは24歳の時だった。酒に向かう男の心情を巧みに歌い上げた。河島さんも酒好きで、仲間とよく飲み話をした。「時代おくれ」では、♪妻には涙を見せないで…目立たぬように はしゃがぬように……と時代に取り残され始めた中高年を応援した。「野風増」では、♪お前が20才になったら 酒場で二人で飲みたいものだ……と、父親の心を歌った。「元気だしてゆこう」は、シドニー五輪のサッカー日本代表のサポーターソングになった。

地道に活動した。かつて「いいじゃないですか。オヤジで。無理して格好つけると、逆に時代に流されてしまう。自分に何が似合うかを見極めなくてはいけませんよ」と語った。東京にこだわらなかった。1曲に2年を掛けたこともあった。旅が好きでペルー、トルコなどに出掛け、身ぶり手ぶりで現地の人と接した。「胸を張って生きれば、どんな状況でも何とかなる」という自信が、河島さんの歌にも生きた。
 ライブが好きで、バイクに乗り全国を回った。「人生は、詩人が小説家に変わる過程だと思う。子供の時には、感性を素直に表現するだけで、素晴らしい詩になるが、大人になると他人を納得させるために、1語ずつ積み重ねる必要が出てくる」が河島流だった。

そんな河島さんも、最期は父親の顔だった。吐血を聞き、病院へ急行したアナムに、河島さんは「歌ってくれ」とせがんだ。アナムは昨夏デビューしたばかりで、河島さんに持ち歌を聴かせると、満足そうにほほ笑んだ。一時退院直後の先月24日には、神戸市内で行われたあみるの挙式に出席した。「前の晩、泣いていたよ」とあみるにからかわれた。「酒と泪──」とは違う涙だった。


本名同じ。1952年(昭和27年)4月23日、大阪生まれ。大阪・花園高時代、友人とフォークグループ、ホモ・サピエンスを結成。75年「何かいいことないかな」でデビュー。解散後、ソロ歌手となり「酒と泪と男と女」がヒット。音楽活動の一方でインド、ネパール、ペルーなどを放浪した。日本国内のツアーでは、小さな町村を自らの足で歩いて回るなど、独自のライブを精力的に展開。ヒット曲は「時代おくれ」(日本有線放送特別賞)「野風増」などがある。91年(平成3年)「時代──」でNHK紅白歌合戦初出場。95年阪神・淡路大震災の復興義援コンサート「復興の詩」をプロデュース。俳優としてNHK朝の連続テレビ小説「ぴあの」「ふたりっ子」などに出演した。妻、1男2女の5人家族。長女あみる(本名亜美瑠)はタレント、二女アナム(本名亜奈睦)はフォークデュオ「アナム&マキ」として昨年デビューした。血液型B。アナムの由来はベトナムのひとびとの船の名前、難民たちとなり、命を支えていた偉大なるふねのなまえ。

河島さんは88年12月にアルバム「季節」を発売した。その中の収録曲「地団駄」は、村田さんの勇姿を歌った曲だった。打者から逃げることなく、魂を込めて剛速球を投げ込む姿にあこがれていた。ひじを痛めてメスを入れ、再起不能といわれながら復帰した村田さんにささげたかった。
作詞家阿久悠(64) 突然の訃報(ふほう)に驚いています。最も説得力を持つ歌手が1人失われたことは残念でなりません。河島さんとは86年の「時代おくれ」からの付き合いです。バブルの最中に時代おくれの良さと貴重さを伝えるには彼しかいないと思っていましたし、結果も十分に説得力を持ったと思います。「はしゃがぬように 目立たぬように そして 人の心を見つづける男になりたい」と時代おくれの歌詞のような人であったと思います。無念の気持ちを抱きながらめい福を祈ります。


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